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論文名 Primary progressive aphasia:その概念と変遷の歴史
論文言語 J
著者名 小森 憲治郎
所属 愛媛大学大学院医学系研究科脳とこころの医学
発行 神経心理学:26(4),255─263,2010
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要旨 Mesulamにより提唱された原発性進行性失語(PPA)の概念は,伝統的な失語の症候学からは見落とされていた変性疾患に伴う失語に注目する機会を与え,進行性失語症の理解と研究の発展に偉大な功績を残した.当初,特定の神経病理学的背景を持たない左シルビウス裂周囲の局所的萎縮により,全般的な認知症を伴わない緩徐な進行性の失語症候群として登場した.その後,同部位の局所的萎縮に伴い非流暢性の失語像を呈する進行性非流暢性失語症(PNFA)と,左優位の側頭葉前方部の萎縮に伴う語の意味理解障害を特徴とする進行性流暢性失語の意味性認知症(SD)を代表とする臨床診断基準が定められた.これらはまた前頭側頭葉変性症(FTLD)を構成する臨床症候群でもある.PPAの概念は変遷を重ね,現在では,左下前頭回に萎縮の中心を持ち失文法を特徴とする失文法型,左側頭葉前方部の萎縮に伴う流暢性失語のSD,および左側頭・頭頂領域の萎縮に伴い発話の言いよどみと音韻性錯語を特徴とする発語遅延型(logopenic progressive aphasia:LPA)の3型に分類されている.さらに失文法型はFTLD-タウ蛋白異常を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-tau)と,SDはユビキチン(TDP-43)染色陽性封入体を伴うFTLD-uと,そしてLPAはAlzheimer病(AD)と臨床神経病理学的に関連の深いことが強調されている.斯くしてPPAの背景病理を把握するために臨床観察,神経画像,分子生物学的バイオマーカーなど多面的な研究アプローチが展開されている.しかしPPAは今なお解決すべき問題点を孕んだ概念であり,今後も各領域において慎重な対応が望まれる.
Keywords 原発性進行性失語, 進行性非流暢性失語, 意味性認知症, 失文法型進行性失語, 発語遅延型進行性失語
別刷請求先 〒791-0295 愛媛県東温市志津川 愛媛大学大学院医学系研究科脳とこころの医学 小森憲治郎 kkomori@m.ehime-u.ac.jp


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