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論文名 頭部外傷の既往がありアルツハイマー病によると考えられる認知機能障害を呈した患者の臨床的特徴
論文言語 J
著者名 小熊 芳実1)4), 佐藤 卓也2), 佐藤 厚2), 今村 徹1)3)
所属 1)新潟医療福祉大学医療技術学部言語聴覚学科
2)新潟リハビリテーション病院リハビリテーション部言語聴覚科
3)同 神経内科
4)現 下越病院リハビリテーション課
発行 神経心理学:32(3),248─259,2016
受付 2014年1月14日
受理 2015年10月16日
要旨 【背景】疫学研究によって,頭部外傷はアルツハイマー病(AD)の危険因子であることが示されてきたが,頭部外傷の既往を有する進行性の認知症高齢者の臨床像はADとして非典型的である場合が少なくない.【目的】頭部外傷の既往と緩徐進行性の認知機能障害を有する患者の臨床的特徴を検討する.【対象】認知症専門外来で精査を完了した787症例の臨床データベースから,以下の条件をすべて満たす6症例を抽出した.(1)重大な外傷の既往が特定されている,(2)その際に頭部外傷があったことを示す所見または診断がある,(3)頭部外傷後,周囲が認知機能や精神・人格に関する後遺症に気づいていない,(4)頭部外傷後,家庭生活や職業における役割が保たれている,(5)頭部外傷よりも明らかに後に緩徐に発症し進行する認知機能障害が存在する,(6)頭部画像検査上での陳旧性の外傷性病変がみられる.【方法】6症例の認知機能障害と行動心理学的症候について診療録を元に回顧的に分析した.【結果】6症例中3症例で脱抑制,感情・情動の変化や常同行動などが見られ,前頭側頭型認知症(FTD)の臨床診断基準の中核的診断基準と支持的診断的特徴に一致する項目が多かった.しかし,近時記憶障害で発症し,構成障害や道順障害もみられており,原因疾患はADであると考えられた.他の3症例は高齢発症型のADの臨床像であった.【結果】頭部外傷の好発部位は前頭葉底面と側頭葉の前方から外側底面であるので,頭部外傷による脳予備能の減少はこれらの部位でより強いと考えられる.頭部外傷によって前頭葉症状の責任病巣となる部位の脳予備能が減少し,その後に発症したADの比較的初期から,近時記憶障害とともにFTD様の前頭葉症状が出現した可能性が考えられる.
Keywords 頭部外傷, アルツハイマー病, 前頭側頭型認知症, 前頭葉症候群, 脳予備能
別刷請求先 〒950-3198 新潟市北区島見町1398 新潟医療福祉大学医療技術学部言語聴覚学科 今村 徹 imamura@nuhw.ac.jp


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