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論文名 視覚選好判断の,行動/神経対応
論文言語 J
著者名 下條 信輔
所属 カリフォルニア工科大学生物学部/計算神経系,科学技術振興機構ERATO下條潜在脳機能プロジェクト研究総括
発行 神経心理学:25(2),92─98,2009
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要旨 新生児や乳児は,特定の視覚刺激に対して選択的に定位し注意を向ける(選好注視).われわれは健常成人でも,顔などの自覚的な選好判断に先立って,視線が選ばれる方の対象に偏ることを見いだした(視線のカスケード効果).無自覚の定位機構と,自覚的な選好判断との間の本質的な関係を示すものと考えられる.またfMRIの結果は,選択に対応する神経活動がまず皮質下の部位(側坐核)ではじまり,前頭の部位(眼窩前頭皮質)に移行することを示す.興味深いことに,課題が選好でなくても,同じ側坐核がより魅力的な顔に対して大きな反応を示した.一方,記憶が選好判断にどう影響するかも,未解明の問題である.これについてわれわれは,経験の反復に伴い顔ではより親近性の高いものがより強く選好され,自然風景ではより新奇性の高いものが選好されることを示した.さらにfMRIの結果からは,親近選好と新奇選好とで,ほぼ独立の神経回路の関与が示唆された.もともとヒトやサルでは,知覚することそのものに報酬価値があると考えられるが,われわれ自身がサルの眼窩前頭皮質で行った多電極記録からも,これは支持される.このように知覚することそのものに報酬価値がある(魅力的である)のは,記憶(報酬マップ)→定位→選好→記憶の書き換え,という正のフィードバックループが作動するからだと考えられる.
Keywords 選好, 意思決定, 定位, 側坐核, 眼窩前頭皮質
別刷請求先 California Institute of Technology 139-74, Pasadena, CA 91125, USA. 下條信輔 sshimojo@caltech.edu


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